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2016年06月02日

7割が無許可か "観光都市・京都"の「民泊」の実態

最近なにかと話題の多い「民泊」。観光都市の京都市が民泊の実態を調査した。それによると、ビジネスホテルのような利用方法が多いものの、旅館業法で無許可と推定されるものが最低でも7割はあるという。今後、民泊はどこへ向かうのだろうか?【今週の住活トピック】
「京都市民泊施設実態調査について」を公表/京都市宿泊施設が不足し、民泊が増加。トラブルが懸念されている

京都市には、外国人を含む年間5000万人を超える観光客が訪れるなど、増大する宿泊需要に対して宿泊施設の不足が生じている。一方で、インターネットを介した一戸建てやマンションの空き家や空き室を宿泊客に提供する民泊が増加しており、トラブルも懸念されている。

こうしたことを受けて、平成27年(2015年)12月に「『民泊』対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、実態調査を実施して実態を把握するとともに、京都にふさわしい、安心・安全で市民生活と調和した宿泊環境の整備方策の検討をすることになった。

同じように観光客の宿泊施設不足に悩む東京や大阪では、東京都大田区と大阪府、大阪市が安倍政権の「国家戦略特区」を活用して、旅館業の許可を得なくても民泊が行えるように条例を改正する動きがある。しかしながら京都市では「旅館業法の許可なしに民泊を営業することはできない」として、宿泊客に注意を促すとともに、運営側に指導もしている。

1泊から宿泊可能で、1人当たりの料金は6001円~12000円/泊が多い

京都市の民泊実態調査では、民泊仲介サイト8社で計2702件(宿泊可能人数1万1852人)の登録を確認し、宿泊施設としての実態や旅館業法許可の有無などを調べている。

その結果を見ると、施設タイプの内訳は一戸建て935件、集合住宅1677件、その他90件。「部屋貸し」「シェアルーム」ではなく、住居すべてを宿泊客に貸し出す「一棟貸し」が戸建てで約6割、「一戸貸し」が集合住宅で約9割と多いことが分かった

【画像1】市内民泊施設の状況(施設数・施設タイプ)(データ:京都市「京都市民泊施設実態調査について」より一部抜粋)
【画像1】市内民泊施設の状況(施設数・施設タイプ)(データ:京都市「京都市民泊施設実態調査について」より一部抜粋)

また、旅館業法の許可の有無については、「物件所在地を特定(推定含む)できて無許可だったもの」と「物件所在地の番地まで特定に至らず、同じ町に許可物件がないもの」、つまり、無許可と推定される民泊施設が最低でも約7割にのぼることが分かった。

【画像2】旅館業法の許可の有無(データ:京都市「京都市民泊施設実態調査について」より一部抜粋)
【画像2】旅館業法の許可の有無(データ:京都市「京都市民泊施設実態調査について」より一部抜粋)

最低宿泊日数については、1泊から宿泊可能な施設が53.7%と過半数。国家戦略特区で旅館業の許可を得なくてもよいとする条例では、「6泊7日以上の宿泊日数」という条件を設けているのだが、その条件を満たす施設は1.6%しかなかった。

1泊当たりの宿泊料金では、1人当たり「6001円~1万2000円」が38.9%と多かった。つまり、一戸貸しや1泊から宿泊可能という施設が多いことと考え合わせると、ビジネスホテルのような利用がされていることがうかがえる結果となった。

民泊施設の周辺住民に不安も。京都市の民泊対策は?

京都市の実態調査では、市内の民泊施設の周辺に住む住民にもヒアリング調査を行っている。
一戸建てでは、「集合住宅より多くの人数が宿泊可能なため騒音につながりやすい」ことや、「路地奥での施設については火災の心配がある」ことなどの声が挙がり、集合住宅では、「オートロックの意味がなくなっている」ことや、「1つの集合住宅で多数の民泊が運営されている物件では、ごみ問題、騒音、深夜にインターホンを間違って鳴らされたなどの具体的な迷惑をこうむっている」などの声が挙がった。

また、いずれの場合も「民泊開業に当たっての事前の説明がない」こと、「管理者が常駐せず、トラブル時の連絡先も分からない」ことなどから、住民の不安をさらに増大させていることも浮き彫りになった。

これを受けて京都市では、「宿泊客と周辺住民の安心・安全の確保を前提として、周辺住民の生活環境との調和が図れ、宿泊客と周辺住民との間に『心のふれあい』が生まれてこそ最高の『おもてなし』であると考えている」という前提で、旅館業法に基づく指導を強化する一方で、市内の宿泊施設不足を解消する手段として、京町家や空き家、農家住宅などの活用も含めた、京都にふさわしい宿泊施設の増加策や民泊対策を検討していきたいとしている。

観光立国を目指す政府が検討している民泊対策とは?

最後に、民泊に対する国の政策について説明しよう。2015年11月に「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」を立ち上げ、民泊のルールづくりに着手している。まず、民泊の宿泊施設を旅館業法上のカプセルホテルや民宿と同様の「簡易宿所」と位置づけ、面積基準や玄関帳場設置義務の緩和などを盛り込んだうえで、旅館業の許可を受ける必要があるとしている。

一方で、民泊を一律に捉えるのではなく、家主の有無、管理者の有無、一戸建てか集合住宅かなど、その形態や特性に応じて中期的に検討する必要があるとして、家主が居住するホームステイ型では許可ではなく届け出制にするなどの緩和策や、民泊施設の管理事業者や仲介事業者への規制を含めた制度体系を構築するなどについてさらに取り組んでいくという方針を出している。

京都市でも、ホームステイ型については、国際交流や短期留学生の受け入れ促進の観点から、政府の検討結果を踏まえて検討したいとしている。

また、2016年5月13日に「民泊全面解禁へ原案まとめる」 といった報道が流れた。規制を大幅に緩和し、民泊営業できる日数に上限をもうけるものの、届け出れば誰でも民泊に参入しやすくする制度になる案をまとめているということだ。

観光強化、空き家対策、シェアビジネス、国際交流などいろいろな思惑がからんで、複雑化している民泊ではあるが、民泊本来のもつ「観光客が安全で快適に過ごせる」かつ「その土地に親しんでもらう」ということが達成するように、ルール整備がなされていくことを望むばかりだ。