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京都市の観光行政を戦略部長に聞いてきた、「量より質」への転換で解決すべき5つの課題
年間5000万人を超える観光客が訪れる京都市。外国人観光客も急増しており、2014年の宿泊客数は過去最高の183万人となった。米国の有力旅行雑誌の読者投票で、2年連続の人気都市1位を獲得するなど、名実ともに世界的な観光都市として評価されている。しかし、その京都市ゆえの課題も多い。
京都市産業観光局観光MICE推進室MICE戦略推進担当部長の三重野真代氏(写真)は「京都市としては観光客の量より質を求めたい」と話す。その真意とは――?
旅行者の満足度を高め、観光で稼げる仕組みを
訪日外国人旅行者数が年間1900万人を超え、経済的にも社会的にもインバウンドが一大ムーブメントになっている。地方自治体も外国人観光客誘致に前のめりで取り組んでいるが、京都市の場合は事情が少し違うようだ。受け入れのキャパシティーの観点から、「これ以上、観光客を受け入れるべきなのか」と考える京都市民も多いという。
京都市が掲げる「量より質」という方向性も、そうした京都特有の事情から導かれたものだ。三重野氏はその質について、「旅行者の満足度を高めていくこと」「現地消費額を増やしていくこと」「市民生活と共存させていくこと」の3点を挙げる。
京都市では2年前に初めて外国人宿泊者数の目標を設定。年間300万人を目指すと定めたが、訪問者数ではなく宿泊者数としたところに質へのこだわりが見える。「あくまで宿泊して京都市にお金を落としてもらうため」(三重野氏)の目標だという。
実のところ、京都市には法人税が課税されない宗教法人が多く、税収の面で長年課題がある。京都の神社仏閣は一級の観光素材として多くの観光客を受け入れているが、観光産業の構造からは外れており、年間5000万人もの観光客が訪れるにもかかわらず、観光でお金が落ちる仕組みは弱いのが実情だ。
そこで、今年2月に再選された門川大作市長は、「観光で稼ぐ仕組み」として観光客から税金を取る、いわゆる観光新税の検討を公約として掲げた。
解決すべき5つの課題
「量から質」への転換のなかで、京都市が解決すべき課題はどこにあるのだろうか。そこには、京都市ゆえの課題と普遍的な課題の両方が見えてくる。三重野氏は、「やることはいっぱいある」と言いつつも、5つのポイントを挙げた。
【その1: ラグジュアリーホテル誘致、民泊は地域性考慮して対応】
京都市が観光で稼ぐために解決しなければならない最優先課題が、宿泊施設不足。三重野氏は、「特に上質な観光客を呼び込むためにラグジュアリーホテルの誘致に力を入れている」と語り、「ホテルの単価を上げて、宿泊業者が利益をもっと出せるようにするため」だけではなく、「国際会議の誘致でも重要なポイントになる」と指摘する。
京都市には国際的な会議を誘致するコンテンツは多いものの、それを受け入れられるレベルのホテルが少ないことから、MICEが伸び悩んでいる実情があるようだ。
一方、宿泊施設不足のひとつの解決策として期待されている民泊については、「市民が安心できる仕組みにはなっていない」と慎重な姿勢だ。
京都市では現在、民泊の実態調査を実施し、問題を抽出しているところ。「民泊自体を否定するものではないが、地域によって違いはある。京都という地域性を考えなければいけない」としたうえで、国が新しいルールが定めたとしても、「条例で上乗せ規制を考える必要がある」との見解を示す。
また、京都市は町家再生の取り組みとして、数年前から町家を宿泊施設として一棟貸しする施策も進めている。これは、旅館業法のもとで実施されており、民泊とは別次元の話。一棟貸しが増えるにつれて、京都らしい体験を求める外国人宿泊者も増えてきたが、管理者不在、近隣住民とのトラブルなど民泊と似たような問題も出てきているため、「規制を強めることも考える必要があるのではないか」との考えも示す。
いずれにせよ、宿泊施設不足は京都市にとって喫緊の課題。今夏をめどに、ホテル、旅館、小規模宿泊施設、民泊を含めた宿泊施設拡充方針を策定する方針だ。
【その2: 専門ガイドを育成し、コンテンツを商品化】
三重野氏がふたつ目の課題として挙げたのがコンテンツの商品化。京都には、伝統産業をはじめとして数々のコンテンツがあるが、稼げる商品として提供できていないという。
この課題に向けて、京都市が取り組んでいるのが構造改革特区を活用した京都市認定通訳ガイドの育成だ。国の通訳案内士制度とは別に、京都の地域性に根ざしたガイドをコンテンツの商品化と連動させるとともに、旅行者の満足度アップにつなげていく。
第一期の研修では、定員50名に対して555名の応募があった。そのうち、書類選考と面接審査を通過した59名が基礎研修を受講。今年8月頃には最初の認定通訳ガイドが誕生する予定だ。
この認定制度の特長は、専門ガイドの育成にある。第一期は伝統産業と文化財。今後、毎年募集していく予定で、来年度は食文化と伝統文化も加えるという。その背景には、専門的なガイドによって、京都の伝統文化の本質的な価値を理解してもらうとともに、日本人旅行者と同様に、その価値の購入にもつなげていきたいという考えがある。
「広い意味でインバウンド人材の育成」と三重野氏。通訳ガイドだけでなく、ホテルのコンシェルジュなどインバウンド市場で必要されるビジネスでの活躍にも期待を寄せる。2016年度には、京都市認定ガイドや通訳案内士を紹介する通訳人材バンクも立ち上げる計画だ。
【その3: 外国人が消費しやすい買い物環境も改善】
また、稼ぐ観光のために買い物環境の改善も進めていく方針。京都市は昨年12月、ビザ・ワールドワイド・ジャパンと地域活性化包括連携協定を結んだ。
そのひとつとして、ビザカードが使えることを示す京都オリジナルのアクセプタンスマークを作成し、店舗での掲示を進めることで、カード利用の多い外国人旅行者の買い物を促進していきたい考えだ。
【その4: 外国人対応タクシーで満足度アップ狙う】
さらに、外国人旅行者の満足度を上げる施策のひとつとして、今年3月1日から訪日外国人向けタクシー(フォーリンフレンドリータクシー)の実証実験を始める。
語学力などで認定を受けた運転手および車両が、京都駅の専用乗り場で外国人旅行者を迎える取り組みで、現在のところ認定を受けたのは87名、車両は69台。京都市では今後もこの取り組みを拡大していく。
【その5: 地域観光のカギはDMO、広域連携も模索】
三重野氏は「いろいろな人が観光で恩恵を受けられるようにするためのカギはDMO」と強調する。観光産業に関わる人や団体をまとめる組織の立ち上げは日本全国の課題。京都市では来年度、文化財の公開を主業務とする京都市観光協会を中心としたDMOづくりの検討を始めるという。
さらに、三重野氏は京都府や周辺自治体との広域連携の必要性にも言及。京都市内は宿泊施設不足が顕在化しているなか、「(京都市が)周辺の宿泊も紹介していくべきではないか」と提案。「たとえば、大津駅から京都駅までは10分ほどしかかからない。今後は、こうした情報をもっと発信していくことも大切だろう」と訴える。
周辺に宿泊が広がれば、経済効果が波及するとともに、京都市内に泊まるステータスが上がることが考えられ、そうなれば京都市内のホテルの価値、そして価格も上昇する可能性がある。「グレーター京都」という考え方は、他の地域でも参考になりそうだ。
国土交通省から京都市に出向している三重野氏は「地方に出て、地域性の大切さを強く認識した」と話す。先進的な観光都市である京都市の取り組みは、全国からの注目度も高い。地域性に根ざした稼ぐ観光をどのように作り上げていくのか。京都市の地方創生への歩みは、日本の観光立国化にとっても大きな意義がある。